山口薫! 皆さん、よくご存じですよね。言わずと知れた群馬を代表する近代画家であり、更に日本の近代洋画史を代表する一人である山口薫(一九〇七〜一九六八)です。今回はこの郷土の誇りである偉大なる画家をご紹介します。
今回の展覧会は、高崎にある群馬県立近代美術館のご協力によるものです。群馬近美さんは現在休館中ですが、これに伴い県内の各美術館で群馬近美・名品展が多数開催されています。ここで単なる代表作だけの名品展にしないのが大川美術館らしい処。私共では、群馬近美でもこれまで一同に紹介されたことののない、山口の初期作品に注目し企画致しました。
これまでの当館の企画では「源流展」をシリーズ化してきました。一人の画家が、その代表的作品を完成させるに至るまで、ここを検証する「源流展」。今回の山口は明治四十年生まれですが、戦後になってから本格的評価を受けました。
それはあの「日本的な叙情性あふれる独自の表現」の確立であり、これで彼は名実共に画壇の頂点に達したと言われています。つまり今回の企画では、終戦の昭和二十年を節目とし、ここへ至る中学時代から三八歳までを「山口の源流」として捉えています。
榛名山麓、現在の箕郷町に生まれた山口。彼の作品には生涯に渡り故郷との結びつきが感じられます。それは彼を育んだ大家族の温もりであり、少年時代の楽しかった日々の記憶でありました。そして最初の結婚の破局、また制作活動のままならない戦争中にあって心の傷をいやしたのも、やはり故郷であったのです。これが作品発想の源泉となり、最後まで作品画面の端々に見え隠れしているのでした。
- 【紐】
山口作品は具象と抽象の狭間、このギリギリの所で勝負しているとも言えます。これは特に初期(源流)においてはこの両者の間を大きく揺れ動いて自らの表現を探し求めていたのです。今回の企画でも重要なポイントである昭和十年代。当時の前衛芸術の流れに少なからず影響を受けながらも、しかし彼は具象の世界に留まり続けました。この時代に描かれた「紐」は、最も抽象表現に近付いた作品と呼ばれているものです。しかしそれでも、なぜか人間臭さを感じさせる処が山口らしさと言えるのかもしれません。
- 【榛名山】
当館所蔵品からも源流作品を1点出品しています。終戦の年、昭和二十年頃描かれたこの「榛名山」。山口はこの頃、戦時下の東京から疎開し実家に身を寄せていました。彼は生前、郷里を熱く語っています。「吾が愛する郷里/こうした題を出されたら一巻の書物位は忽ち書いて終いそうだ。私は筆を慎みたい。郷土は熱く私を育む。」と。
尚、常設展示室では、先年より始まりました特選画家・個室にて、好評の「茂田井武トンパリ」と、お馴染みの「鈴木満」を個展形式でご紹介しています。こちらもご期待下さい。
美術館周辺の桜も見頃です。お花見がてらご来館頂ければ幸いです。
(大川美術館学芸課長)