第8回を迎える美術アミューズメントだが、今回は私の知人であり秘かに期待している同郷の画家、正にプリミティブな新井リコさんを採り上げたい。
彼女は
年、会津藩士の流れを汲む家に生まれた。少女時代は、戦後ロマンに彩られた南川潤、小池魚心、オノサト・トシノブ、小島市造、石井壬子夫、等々、望外極まる有無名の超一流文化人との交流に囲まれ、その延長に東京芸大の林武教室があった。恵まれた多くの友人達にかこまれた新星だった。 だが、結婚後の
年間は旧家である機屋(着尺織物製造業)の嫁として大家族との厳しい現実生活に埋没されながら雌伏の
年、漸く
年、春陽会新人賞を得たのが、あの駒井哲郎に激賞された作品「空へ向かう樹(
年)」である。絵は人間とみる筆者にとり、この作品は当時の彼女の資質を**させる逸品と覚える。
その後、今日まで余りにも静かに、身辺の何気ない諸々に、プリミティブで厳しく暖かい小宇宙を模索し続ける市井のロマン少女である。昨今、私の美術館創立運営の苦悩の中で、
年に及ぶ彼女の
通以上にわたる絵手紙は私のエコロジーそのもの、その何げない「そよ風」を、私だけのものとせずに、この誰でも手の届くところにある小宇宙の発見を、絶対逃げないこの小さな幸せを、皆さんと共有したいとの思いがこの企画を考えたのである。
尚、この発表を強く躊躇せる彼女を説得し続け、加うるに漸く今日迄の作品群の概貌を、一覧出来る本企画に発展し得たのである。会場が狭いので不十分だが、初期の油彩や、世界的テキスタイル・プランナー新井淳一の「布」のデザイン協力作品から、一貫したリコさんらしい各種の版画作品は、厳しさを超えて明るく愉しい樹木、道、川べり、花、等々、「平凡なる非凡」正にプリミティブな新井リコの無欲無垢な空間である。そして常に私の大好きな物故版画家、清宮質文の「絵は常に悲しい人のためにある」の言葉が浮上する。
あの林武教室に学びながら、油彩ではなく版画を選んだのは、古く厳しい往昔の嫁の生活で一番狭いスペースでも少ない時間でも可能な作業だったからと、静かに語るこの人柄が、リコ作品の最大の長所であり、また最大の欠点であるのかも知れない。まだ
才、
年は若くみえるリコさんだけに身辺がやや自由になった昨今ゆえ、この細やかな展観を機に何か新たなる飛躍を秘かに期待せずにいられない。
(当館理事長兼館長)