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《 第15話・梅田町五丁目 》
天狗の力くらべ
桐生川めがけて岩石投げ
力くらべが渓流美つくる
桐生市の最北端の町・梅田町----その梅田町の北のはずれに、桐生市の最高峰・根本山(1197メートル)が、そびえ立っています。
むかし、むかしのことでした。その根本山に日光男体山の天狗、榛名山の天狗、妙義山の天狗が遊びにやってきました。そして、親友の根本の天狗ともども、日だまりで楽しそうに語らいを始めました。
天狗たちは、親友同士であっても仕事の都合があって、ふだんは、なかなか出会うことができません。ですから、この日は、本当にしばらくぶりの出合い----そう言えました。それだけに、お互い話に花が咲き、その上、話がとてもはずんで、時の経つのさえも忘れさせるほどの和やかな話し合いが続きました。
それが、力自慢のことに話題が及ぶと、がぜん雰囲気が急変してしまい、険悪な様相さえも呈してきました。
しかも、男体の天狗が長い鼻をうごめかしながら、
「力もちはだれか----ということになれば、そりゃあ、なんたってこのワシが一番じゃろうなあ。」
と、誇らしげに言ったものですから、なおのこと、他の天狗たちが、さらにいきり立ってしまったのです。
そして、口々に、
「とんでもない。ワシの方が上じゃよ。」
「いやいや、ワシの方じゃ。」
と、お互いに言い張って、ますます怪しい雲行きになってしまいました。
もう、口角泡を飛ばしての言い合いだけでは、とてもキリがつきそうにありません。そこで、とうとう根本の天狗を行司役にし、実際に岩を投げ合って決着をつけようということになりました。
遠く山すそには、清流・桐生川が水面(みおも)を陽(ひ)に輝かせて、横たわっていました。天狗たちは、その桐生川を目がけて大きな岩を投げ合おうというのです。
「最も遠くまで投げ飛ばした者が、最も力もちということにしよう。」
ということで、まず、力自慢を最初に言った男体の天狗が、一番始めに近くの大岩を手に取りました。
「そうれっ。」
男体の天狗は、大きな掛声とともに、はるか彼方の桐生川目がけて大岩をほうり投げました。大岩は「ヒューン」という音を残して、みるみる小さくなり、やがて桐生川に大きな水しぶきをあげで落ちました。
「男体の天狗になんか、負けてなるものか。」
と、ひきつづいて榛名の天狗が、妙義の天狗が----。
この投げ合いは、長い時間休む事なく続けられました。三人の天狗は、もう汗ビッショリになって、岩を取っては投げ取っては投げ続けました。けれども、いくら投げようとも、どうしても決着をつけるまでにはいたりません。
そこで、根本の天狗が言いました。
「どうかね。何度やってもキリがない。お日さん(太陽)もだいぶ西に傾いてきたことなので、この次の投げ合いを最後にしては? その結果で一番の力自慢を決めようじゃないか。」
三人の天狗たちも長い岩の投げ合いで、だいぶ疲れが出てきていましたので、根本の天狗の案に即座に賛成しました。
いよいよ最後の大岩投げに入りました。まず男体の天狗が投げました。大岩は、鋭い音を残して飛び去り、津久原橋の脇まで飛んで、桐生川の中に夕日に輝く黄金の水しぶきを上げました。そこは、なんと、男体の天狗としては、これまでのうちでは最も遠くへ飛んだ場所でした。
ですから、男体の天狗は、
「よく飛んでくれたわい。どうやら、これでワシの勝利はきまったようなもんじゃい。」
と、心の中でニヤリとほくそ笑みました。
ところが、ところがです。続いて投げた榛名の天狗の岩が、その男体の天狗の投げた岩の真上に大音を立てて落ち、ゴロリと横に転がると、すぐ隣に小さなしぶきを立てて並んだのです。しかも----最後に投げた妙義の天狗の岩までが、二人の天狗の投げた二つの岩の間に落ちて重なってしまったのです。
とうとう、最後の投げ合いでも決着はつきませんでした。三人の天狗の力は、本当は全くの互角だったのです。
「この勝負、水入りーぃ。」
根本の天狗のおどけたその一声が、天狗たちの間に、また、初めのころの和やかな雰囲気を呼び戻してくれました。
桐生川は、流れの清らかさとともに、川の中に点在する岩石で彩られた『渓流美』でも世に知られています。この渓流美を演出している岩石群は、実は、この天狗たちの力比べの名残なのです。重なり合って落ちた大岩も、津久原橋の上手に現存し、今も里人たちの語り草になっています。
「天狗さんたちが、ムキになって、あんまり岩を投げ飛ばしたもんだから、お山(根本山)が三〇〇尺(およそ九〇メートル)も低くなってしまったんだとよ。」
という、伝えとともに----。
《 根本山(ねもとさん)》
前出の「根本のマキ降り」の欄を参照いただきたい。
《 桐生川(きりゅうがわ)》
根本山を水源にしている桐生市の代表的な河川である。全長約31km、途中に桐生川ダム(梅田湖)を設け、市民の飲み水などを確保し栃木県足利市小俣町近くで渡良瀬川に合流する。
かつては織都・桐生市の風物詩「友禅流し」も見せていた桐生川----その桐生川が市街地を流れるのは、8.3kmだという。
《 天狗の投げた大岩(てんぐのなげたおおいわ)》
もとの海北山の家の手前の桐生川に架かる橋が「津久原橋」である。その津久原橋の右下に重なり合った大岩が見られる。現在「かっぱ神社」となっている大岩で、それが、天狗たちの投げたという大岩である。
◆交通◆前出の「河童とアメ玉」の欄を参照いただきたい。
籾山高大
momitaka@sannet.ne.jp
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